……いくら家を探しても見つからなくて、もうダメだと思ってたんだ。
どこで失くしちゃったのか、だいたいの検討はついたけれど。
探しに戻るなんてことできっこない場所だったから。
……嬉しい……。
形となってわたしに贈られた、有沙の優しさにじんわり浸っていると。
「あ……王子だ」
「──え?」
「ほら見て、あそこ」
有沙が示した方向を、導かれるままに確認する。
「ほんとだ」
「カフェテリアで食べることなんて滅多にないのに……ここの自販機の飲み物、わざわざ買いにきたのかな。こだわりの1本とか? さすがだなあ」
褒めているのか茶化しているのかよくわからない有沙の言葉に、思わず笑ってしまう。
「いつもどこでお昼とってるんだろ。……理事長室とかだったりしてね」
すらりと高身長な身をかがめて、入口近くの自販機から缶を取り出していたのは、──わたしたちと同じく2年生の、本条怜也くん。
容姿端麗──頭脳明晰──身体能力抜群の三拍子が揃った男の子。
その上、聡架学院の理事長が父親で……間違いなく、この学校でいちばんの有名人だ。
校内で最も高い権力を持つ人の息子だから、通称・王子。
とってもベタだけど、主に彼に熱をあげている女の子たちがそう呼んでいて。
……他にも、彼を好ましく思わない男の子たちが嫌味を込めて、“帝王”だなんて呼んでいるのも聞いたことがある。


