Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-




『アイツも、表には出さねーけど、澪奈ちゃんに会いたいはずだし。俺ら、ワケあってあんまり聡学には近づけねーからさ。澪奈ちゃんが来てくれたら、……喜ぶんじゃねぇかなぁ?』



森下くんに言われたことを思い出して、こんな状況でもきゅ、と胸の奥が甘く痛む。


面識のないはずの多々良くんが、わたしに会いたがってる。

その理由って、……。


どうしても気になってしまって、……そんなわたしが見せた隙を、森下くんは見逃さなかった。

この人たちについていく、なんて選択肢、わたしの中に存在しちゃいけない。

自分がされたこと、忘れたわじゃない。

それなのに。
わたしは今……どうしてか、ここにいる。


こんなの、絶対にタダで帰してもらえるわけがないんだ。

間違いなく、馬鹿なこと、してる。

そもそも、本当に多々良くんに会わせてもらえるかも怪しいし、結局、甲斐田くんに連絡もとれていない。


……どうしよう……。


今さら後悔が募っても、遅い。

背後で固く閉じられてしまった門。

もう──逃げられない。



「顔が見えないように、こっそり、な」



森下くんはわたしのフードの先を引っ張って、より深く被せてくる。

その手つきが、数週間前のわたしに対する扱いと驚くほど違っていて、混乱しそうになった。