Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-







「多々良に会ってみたい、だなんて、澪奈ちゃんは面白いこと言うね」



カシャンッ、と裏門を閉めた森下くんが、心底愉快だというようにわたしを振り返る。



「あ……あの。会いたいというか……。わたしは、どんな人か知りたかっただけ、で」

「あはっ。マジでウケる」



訂正するように言うと、森下くんはより一層、満悦な表情をみせた。


黒い柵の向こう、通りすぎた塀には薄汚れた看板。

そこに並ぶ〈那桐高等学校〉の文字に、……わたしはゴクリと喉を鳴らす。

森下くんはわたしの肩を抱くと、空いたほうの手のひらでわざとらしく、目の前に聳え立つ大きな校舎を示した。



「ようこそ──“ナギリ”へ」

「おい」



少し後ろを歩いてついてきていた菊川くんが、気だるげに声を上げる。



「どうなっても知らねーぞ」

「いーじゃん。まだ誰にも見つかってねーし、バレねぇって」

「んな問題じゃねぇーでしょ」

「だって。ボディーガードくんたちを放って、わざわざ澪奈ちゃんからコッチに来てくれたんだぜ? こんな機会、逃したらアホだって。んね?」



なにか話を振られた気がしたけど、わたしはそれどころじゃなかった。


まさか──こんなことになるなんて。

半ば強引に連れて来られたとはいえ、自分の足でなぎ高に忍び込む流れになってしまうとは思ってもみなかった。

唾を飲み込むだけでは拭いきれない恐怖と不安が、喉の下にじとりとこびりついている。



『多々良くんって、どんな人ですか』



ファーストフード店で、菊川くんにそう尋ねたわたしに、すかさず提案をしてきたのは森下くんのほうだった。



『アイツ、まだガッコーにいるぜ。……案内しよーか?』



その言葉の誘惑に、目の前の彼らに対する怖気など忘れて。

わたしは答えを迷ってしまったんだ。

情報がもらえたら、という意図で聞いてみたのだけれど、姿が見れるならそれが一番手っとりばやいのは確かで。


それに……。