Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-




「っ、ごめんない。もう帰るところ、なので……」

「あ〜そうなんだ。駅まで送ってってあげよーか?」

「いいです……っ」

「でも、ひとりは流石に危ねぇよ? 駅の方、俺らのこわ〜い先輩がたむろってるし」

「……」

「ソレで、制服見えないように隠してるみてえだけど。澪奈ちゃんの顔、知ってるやつもいるかも。あの日みたいに声かけられたりして……」

森下(もりした)。やめとけ」



目の前の彼の名を呼んで、その後ろから顔を覗かせたのは、茶髪の男の子。

わたしを襲ったメンバーにはいなかったはずだけど、その顔にも、確かに既視感があって──。


モールで見かけた、“多々良くん”を探していた4人組の内のひとりだと、気がついた。

少しの間のできごとだったはずなのに、妙に記憶に残っている。



「バレたら面倒でしょ」

「あー? 単なる親切心だって」

「怯えてんじゃん」

菊川(きくかわ)は知らねぇと思うけど、澪奈ちゃんはシャイなだけなの。なあ?」



同意を求められて、ふたり分に増えてしまった圧に、否定しようにも声が出せない。


わたしのこと、知った風に言わないでほしい。

あんなことをした後で、顔見知りのように話しかけてくる神経がよくわからなかった。