Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-




「澪奈ちゃん?」



その響きが、……あの夜聞いた声と、ぴたりと重なる。



『平石澪奈ちゃん?』



わたしのことをそう呼んで。

乱暴に触れてきた内の、ひとり──。



「っ」



身を固くして思わず一段、後ずさると、



「おっと。逃げないでよ。……はい、これ」



そっとスマホを差し出され、わたしは戸惑った。


……普通に、返してくれた。


呆気にとられながらも、……距離を保ちつつ、手を伸ばしてこわごわと受け取る。

その様子がおかしかったのか、



「こんなとこでなんもしねーって」



彼はククッと笑った。



「ひとり? ……甲斐田クンは?」



わたしの背後に視線を巡らせながら、まるで親しい友達のことを話題にするように言われて。

背中がぞくりとした。

放課後、わたしが甲斐田くんと一緒にいることを、当然のように知っているような口ぶり。

不気味だった。



「いねぇんだ?」



ニヤリと上がった相手の口角。

よくない状況に陥っていると感じて、足がすくむ。