飲み物、なくなっちゃった。
……帰ろうかな……。
今ならなにごともなく、……嘘もバレずに、無事に甲斐田くんと合流できるだろう。
それに、あまり暗くならない内に、ここを離れたほうがいいはずだ。
……うん。そうしよう。
いわゆる恋は盲目状態だからこその、……無謀でも行動あるのみ! という決死の覚悟だったつもりが、わたしはあっさり席を立った。
カップをゴミ箱に片づけてから、階段を降り始める。
……あ。
今のうちに、甲斐田くんに、そろそろ有沙と別れるって連絡をしておかなきゃ……。
そう思ってわたしがスマホを構えたのと、前から階段を上がってくる人とすれ違うのは同時だった。
軽く肩がぶつかった反動で、手の中の感触が消える。
「っすみません、」
階段下まで落ちてしまったわたしのスマホ。
慌てて拾おうとすると、ちょうどお店の入口から階段に近づいてきた男の子が先に手を伸ばしてくれた。
その制服姿に、心臓が警報のように大きく音を立てる。
気崩された学ラン──それは先ほどまで散々上の階から眺めた、なぎ高のものだった。
「……あれぇ?」
わたしのスマホを片手にこちらを見上げた彼の顔には。
最悪なことに、見覚えがあった。


