「思い立ったが吉日」という言葉があるけれど、今はその響きをひどく頼りなく感じる。

自分の行動に対する迷いが大きくて、意味もなくスマホへ視線を落とした。



〈有沙と寄り道して帰ることになったから〉

〈今日は送ってもらわなくて大丈夫です◎〉



甲斐田くんとのメッセージの履歴画面。

お昼休みに緊張しながら送ったその内容に、了解スタンプと、



〈帰り道ひとりになるタイミングで呼べよ〉

〈遅くなってもいいから〉



との返事が付け足されている。

放課後、学校を出るときにも確認したのだけれど、わたしは未だにメッセージを返せずにいた。

既読をつけず、画面をロックして息をつく。


……嘘をついてしまった。

本当は、有沙と寄り道の約束なんて、していない。


わたしはたった今、甲斐田くんに黙って、聡学の最寄りからふたつ隣の駅までひとりでやってきていた。


繁華街にあるファーストフード店。

2階の窓際の席。

外を見下ろせば、なぎ高の生徒が数人歩いているのが見える。

ここは、──那桐高校の最寄り駅。

帰宅途中だったり、繁華街で遊んでいる彼らを確認することができる位置だ。