「……くすぐってぇんだけど」
「っ……!」
頭上から笑い混じりの声が聞こえて、バッと手を離す。
慌てて距離をとろうとしたら、伸びてきた腕の中に毛布ごと閉じ込められてしまった。
くい、と目元にあった布端を引き下げられて、とろんとした眠気の残った視線が絡む。
「隠れてこそこそなにやってんだよ」
「……お、起きてたの……?」
「たった今、な。えろい手つきに起こされた」
「や、違っ……。痛むかなって、気になって……」
「もーなんともねぇよ」
……ほら。
また、平気なフリ、してる。
昨日の今日で、なんともなくなるわけがないのに。
わたしも似たような怪我をしたばっかりだから、わかる。
でも……もしかして、飛鷹にとってはこういうの、日常茶飯事なのかな。
慣れっこなのかな。
確かになぎ高の人たちって、……そんなイメージ。
「……あの、ね? また怪我したら、手当て、するから。言ってね」
あんまり危ないことしないでね、とまでは、口を出せなかった。
飛鷹はくすりと薄く笑って、わたしに回した手をとん、とん、と動かしてくる。
「まだ寝るだろ? 俺も、ねみい……」
「……、うん」
なんとなく、返事を誤魔化された気がしたけれど、おやすみ、と返して目を閉じた。
今日と明日は休日だから、好きなだけゆっくりできる。
この調子だと、起きるのはお昼頃になっちゃうかも。
起きたら、……なにをしようかな。
飛鷹の予定はどうなんだろう。
夜まで一緒に、いられるのかな……。
そんなことを考えながら、規則正しいリズムを刻む飛鷹の手に、心が落ち着いて。
わたしは微睡みの中へと、深く、深く、沈んでいった。
次に目を覚ましたとき、……そこにはもう、飛鷹の姿はなかった。


