Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



気にかけてくれた有沙のことが頭を掠めて、無性に泣き出したくなって。

わたしは堪えるように首を振った。



「ただ、飛鷹の体のこと、心配なだけ……」



弱々しく言い返すと、わたしの足から、大きな手がそっと離れる。

こくり、と喉が鳴る音。



「……なんか。いらねーこと言ってんな、俺」



小さな呟きが落とされて、



「やっぱ今……頭おかしーわ。これでも気をつけてんだけど。話してるとやべーかもって思って、はじめは、……」



そこまで続いた言葉が不自然に途切れた。

もしかすると今のもまた、飛鷹にとっては余計な話だったのかもしれない。


……きっと、考える前に、言葉が出てきちゃっている感じ。

これも、薬の影響、なんだよね……?


納得と心配が入り交じった気持ちでいると、



「……なあ。お前からキスして」



次に飛び出してきたのも、また、とんでもなく突拍子もないもので。

わたしは唖然とした。



「心配してくれんなら、俺に喋る隙与えねぇように、して」

「……あのね。冗談言ってる場合じゃ」

「本気なんだけど?」



飛鷹はすぐ後ろにあるベッドの側面に寄りかかり、待ち構えるような視線を送ってくる。



「……しろって」



お願いしている立場だとは、到底思えないような物言い。

それでも、拒絶の言葉が出てこないのは、飛鷹に求められることを、わたしも望んでいるからで……。



「みお」



急かすように、短く名前を呼ばれてしまえば。

わたしを捉える熱っぽい瞳に吸い込まれるようにして、近づくしかなかった。