Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-




「っ、なにそれ……」



薬はまだ完全に切れたわけじゃないのか、少し舌っ足らずな響き。

その声だけで、わたしの動きは封じられてしまう。

手当てをしてあげたいのに、目の前の誘惑を振りほどけない。



「俺……頭回ってねぇ中、気づいたらここに向かってたんだって。どういう意味かわかんだろ?」

「……わかんないよ」



わたしの言葉に、飛鷹は静かに笑った。

息がかかって、くすぐったい。



「次は週末とか言ったの、すぐ取り消したくなったし。もー昨日から、お前のことどーしてやろうかなってことしか、考えらんねぇー……」



飛鷹の綺麗な指がわたしの太ももを撫でる。

内側へ向かって滑り、すぐ止まって。

かと思えばまた首筋にキスされて……、わたしが体の力を抜いた隙に、手はさらに上へ移動してきた。



「あ──、だめ……っ」



咄嗟に足を固く閉じると、飛鷹の動きがピタ、と止まる。



「……嫌?」



わたしと目を合わせないまま、問いかけてきた。



「あー……もしかして。俺を部屋にあげたこと、後悔してんの?」

「そんなことない、けど」

「こんな怪我するやつとは無縁な生活送ってそーだもんな、お前」

「……」

「そもそも、だから今日はやめとこーと思ってた」



……そうだったの?

それって、怪我することが最初から決まってたってこと?


飛鷹にとっての当たり前に対して、理解し難い気持ちが胸の底にわだかまった。



「……、みお」

「……」

「俺のこと。怖い?」



黙ったままのわたしにトドメを刺すように、飛鷹の問いが、すとんと貫いてくる。

それは、まるでわたしの中で蠢く疑惑に、無理やり答えを突きつけようとするものだった。


……そんなこと、聞かないでほしい。

全く怖くないって言ったら、嘘になるから。

だけど。


──飛鷹が、なぎ高の生徒だったら。

──飛鷹の目的が、わたしが前に襲われた理由と関係していたら。


帰るまでの間も、帰ってからも、いっぱい考えてみて。

それでも……わたしは、やっぱり……。


たとえ、目の前にいる飛鷹が何者であっても、……本条くんや甲斐田くんの親切を裏切るようなことかも、しれなくても。

このまま、許されるまでなにも気づかないふりをしていたい。


この気持ちを、簡単に変えることなんて……できないよ。

もう、とっくに、……手遅れ、なんだ。