Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-




『泣かされたときは話、聞いてあげる』

「予定は全くないです、けど。……もしなっても、本条くんだけには、言わない」

『なんで。俺たちの仲なのに』



いったい、どんな仲のつもりなんだろ?


思わず突っ込みたくなってしまった。



「絶対笑われて、ご飯を美味しく食べるおかずにされるって、わかってるもん」

『あれ。バレてんだ』

「……もう。これ、からかうために電話してきたの?」



会話の内容的に、心配のほうがオマケだったんじゃないかって思えてくる。

本条くんはふは、と息をもらして、



『違うよ』



ふと酷く優しい調子に切り替わった。

機械を介しているせいで、普段よりこもって聞こえる落ち着いた声に、少しだけドキッとしてしまう。



『……ただ俺が、平石さんの声、聞きたくなっただけ』



滑らかで甘い、その囁きに。

わたしはまんまと言葉を失った。


……一瞬。

本当に一瞬だけ、信じかけてしまった。



「っほら、やっぱり、からかいの電話だよね……!」



わたしは動揺を隠しきれないままに言い返す。

……案の定、戻ってきたのは、くつくつと押し殺したような笑い声。


……こ、この人は……。

本当に……〜〜っ。


『やっぱチョロいじゃん』なんて小さな呟きまで聞こえた気がして。

わたしは悔しさを噛み締めながら、本条くんへ届きもしない握りこぶしを、スマホの画面に向かって作った。

そのまま小突いて、せめて音でだけでもやり返そうと思ったところ。


──ピンポーン、と。

家のチャイムが鳴って、構えた右手の行き場を失ってしまう。