お風呂から上がったのは、日付が変わる少し前のこと。
ドライヤーで髪を乾かしていたから、スマホのバイブ音に気がつくのが遅れて、誰からの着信か、ろくに確認もせず出てしまった。
『もしもし』
聞こえた本条くんの声。
わたしは驚いて、危うくスマホを落としそうになる。
「えっ? あ、もしもし……?」
『ごめん。こんな遅くに』
「全然平気、だけど……どうしたの?」
尋ねながらも、薄々わかっていた。
本条くんがわたしに連絡してくる内容なんて、限られているようなもの。
『今日、帰りになぎ高のやつらを見かけたって、甲斐田から聞いて』
わたしは心の内で、やっぱり、と思った。
あのとき、甲斐田くんはわたしの不自然な行動の理由に気づいていながら、波風立てないために誤魔化されたフリをしてくれたんだ。
そしてそれを、本条くんにはしっかり報告したのだろう。
……つまり、これは探りの電話、ってこと。
「見かけただけ、だから。なんともなかったよ?」
ひっそりと罪悪感を抱きながらも、なるべくいつも通りを心がけて答えた。
『ならいいんだけど。変に不安になってないかなって、気になったんだ』
「そっか……。ありがとう。甲斐田くんも居てくれたし、大丈夫」
『あそ。甲斐田とも、上手くやれそうならよかった』
「うん。思ってたより……いい人、だった」
言葉を選ばずに言うと、スマホの向こうで短い笑いが上がった。
『それ、元々は悪い印象だったってこと?』
「ち、違うけど……。思ってたよりさらに……の、ほう」
『ふうん。俺が言うのもなんだけど。あいつはやめといたほうがいいよ』
「な……っ。そういう意味でもないから。大丈夫」
『そう? 平石さん、チョロそうだからな』
……う……。
現在の自分を顧みると、否定できない。


