扉の向こうへ消えていった背中を見送ったまま、暗い玄関に立ちすくむ。

……やがて、よろりと壁に体重を預け、その場にずるずる座り込んだ。


はあっ、と酸素を求めて、口を開く。

全身がドクドクと脈打っていた。



「……すき」



苦しくて苦しくて、我慢できずに吐き出すと、少しだけ楽になって、……目が熱くなった。


……飛鷹はたぶん、気楽な遊び相手のつもり。

だからわたしに、自分のこと、なにも話してくれないんだ。

この想いの先に、穏やかな幸せが待ってるわけない。

そう頭ではわかってるのに。



きっともう、──引き返せないところまできている。



あの夜……。
出会ったときに芽生えた、僅かな想い。

それはすでに、わたしの手では摘み取ることができないくらいに、大きくなっている。



ぼやけた視界の端で、まるでなにかを警告するように。

バッグから飛び出したスマホの画面が、0時を知らせるため、必死に暗闇を照らし出したのが映った。