Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



最初は少しだけ乱暴だったのに、徐々に優しく、甘い触れ方に変わっていく。

海のそばでのキスに感じた物足りなさが、満たされて。

廊下に響く水音に、心が高ぶって。

もう何も考えられなくなって……、わたしは力を抜いて、硬い扉に寄りかかった。


いっそ、このまま──。



「部屋……、はいる……?」



ぼんやりとしたまま、震える声で、そう口走っていた。

わたしの肩を支えていた指先が、ピクリと微かに揺れる。



「馬鹿」



落ちてきた飛鷹の声に、ぺし、と頭をはたかれた。



「んなことしたら、帰れなくなんだろ」

「……」



それでもいいよ。そう思えてしまう自分に、自分でびっくりする。

飛鷹といると、知らなかった本性を、お腹の底から引きずり出されるみたいだ。


わたしって思ったより、……いい子じゃない、のかも。



「明日、用があんだよ」

「……そ、だよね。変なこと言って、ごめん」



わたしだって学校がある。

後先考えず欲張ってしまったことに対して、羞恥が込み上げた。


もうバイバイしなきゃ。

わたしが動かなきゃ、飛鷹が帰れない。


後ろ髪を引かれる思いを断ち切って、バッグの中から家の鍵を探り出す。

鍵穴に差し込み、ガチャリ、と音を立てて、



「それじゃ──」



おやすみ。またね。

振り返ってそう告げようとしたわたしは、腕を引き寄せられた驚きで、言葉を続けられなかった。