Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



それにしても。──びっくりした。

部屋の場所を確認しておきたい、って、こと?

中に入る……というわけじゃ、ないよね。


まさかね、と落ち着きを取り戻しつつ、……頭の中では、ついつい部屋の散らかり具合を思い出してみる。


人に見せられる状態ではあった……はず。うん。



ここで暮らしてもう1年は経つけれど、エントランスドアを誰かと通ったことはなかったから、なんとなく気恥ずかしい。


誰ともすれ違いませんように。


マンションの住人に知り合いと言える人なんていないのに、そんな余計な心配がわたしを緊張させた。

エレベーターに乗り、廊下を進んで、



「ここ、です」



玄関扉の前で、立ち止まる。



「じゃあ……次も、楽しみにしてるね」

「明日は来れねぇと思う。だから、週末だな」

「……そっか。わかった」



明日は会えないんだ。


そう思ったら、離れがたくて、どうしたらいいかわからなくなる。

またね、の3文字が重たい。



「……それ。寂しーって顔?」



言い当てられて、全身の熱が一気に頬に集まった。

答えなくても、こんな反応、もはや図星だと言っているようなもの。

いたたまれずに顔を背ける。


……でも、飛鷹はそれを許してくれなくて。

逃げ道を塞ぐように顔を寄せられて、



「っ、ん……」



あっという間に唇を奪われた。



「……まっ……て。誰かきたら、」

「そんときやめる」



ぴしゃりと言われると、何も言い返せない。

恥ずかしいだけで、やめて欲しいなんてこれっぽっちも思っていないのだから、抵抗する意味もない。

わたしは飛鷹の胸元に添えていた手をどけて、ジャケットの裾をすがるように握りしめた。