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帰り道は、バイクへの慣れもあって、景色をじゅうぶんに楽しむ余裕が生まれた。
眠りにつき、冷たい印象を漂わせている街中を走り抜けるのは、案外気持ちがいい。
自由というものを、全身で感じられるみたいだった。
──あれから、わたしたちは肌寒さに耐えきれず、カフェに入って他愛もない話をした。
わたしの私服姿が制服のときとは印象が違う、だとか。
お互いの第一印象への偏見だとか。
マンションに住み着いている猫のことだとか。
プライベートについての会話をしたのは、外にいた最初のうちだけ。
……本当は、名前だけじゃなく、知りたいことがたくさんある。
年齢。住んでいるところ。普段の過ごし方。
好きなもの。苦手なもの。
連絡先だって、一番に知っておきたいところだけど……。
臆病なわたしは尋ねることができない。
名前を聞き出したときのような不安が、常に付き纏って、邪魔をするから。
……ひとつでも道を誤れば、もう会ってもらえなくなるんじゃないかと、怖くて。
なんとか“次”を繋ぎ止められれば──今はそれだけで、満足だった。
「送ってくれてありがとう」
マンションの下。
わたしたちは待ち合わせたときと同じように向き合った。
約束通り、午前0時前。
数時間は一緒にいたはずだけど、あっという間だった。
このまま別れる前に、次の約束をできたら……なんて考えていたら、ヘルメットを脱いだ飛鷹が、軽く頭を振って髪を整えていた。
「上まで行く」
思わぬ申し出に、ドキッとする。
「次はチャイム鳴らすから、中で待ってろよ」
「えっ? あ……、そ……するね」
また会ってくれるつもりなんだってわかって、嬉しくなる。


