Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



「っ、?」



驚きとくすぐったさが先行したものの。

すぐに、わたしに名前を教えるために、文字をなぞってくれているのだと理解した。


一画たりとも逃さないように、彼の指の動きを目で追って。

肌を滑る感覚に神経を集中させる。


やがて、手を止めた彼は視線を落としたまま唇を綻ばせた。



「……、読めた?」



手のひらがジンとしている。

肌をなぞられた部分が熱を持って、主張してくる。

まるで彼の名前が、わたしの身体に、刻み込まれたみたいだ。



「……ひ、だか……?」



誰かの名前を口にすることに、こんなに緊張したこと、ない。


自分で発した自分の声に、痛いほど心臓を縛りつけられた。



「あたり」



砕けた調子の呟き。
再び握られる手。

心の中で反芻する、知って間もない、響き。



「……飛鷹」

「うん。だいぶぎこちねーな?」



わたしの呼びかけに返事をしてくれて、微笑んでくれる姿──。

そのすべてに意識も、心も、奪われる。