Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



昨日はいきなりしたくせに。

今の流れでわざわざ聞いてくるなんて、ずるい。


「だめ」とも「いいよ」とも言えず……、わたしは、目を閉じる。

まぶたの向こうで、彼がふっと笑った気配がした。



「それ、返事のつもりかよ」



呆れにも似た声が聞こえたのち、柔らかな感触が、わたしの唇を包む。

……これが何回目のキスなのかは、昨日のせいでもうわからない。

けれど、わけもわからず受け入れるんじゃなく……、こうして触れてもらえることをきちんと嬉しく感じる、最初のキスだった。


充足感を含んだ刺激が、頭の中を白く染めていく。

音も立てず離れた彼の唇に、ほんのり物足りなさまで感じてしまった。



「……みお」



──あ……。

今日、はじめて呼んでくれた。


わたしの名前。
聞き馴染みのある響き。

それなのに、このひとが口にすると、魔法の言葉みたい。

わたしにとって、彼の存在が特別なんだってこと、実感させられる。


……もっと、呼んで欲しい。

あわよくば、……わたしもこのひとに、同じような気持ちを与えられたら……いいのに。


そんな欲まで湧き出して、気づけば、



「名前……。聞いても、いい?」



今度こそ、という覚悟で、わたしは切り出していた。



「……わたしも、呼びたい……」