Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-




「だめ」

「……」



危うくこのまま、海へと身を投げ出したい気分になりかけたところ。



「とか、言うわけねーよ?」



引っかかってやんの、と笑われて、手のひらを差し出されたものだから。

感情はジェットコースターさながら、急降下からの急上昇で大忙し。

心臓も混乱しちゃったのか、鼓動が限界を訴えるように激しくなる。

それに耐えながら、……なんとか、手を重ねた。


指を絡めるのと一緒に、わたしの手は、彼の体温に包まれた。



「いちいち、確認いらねぇんだけど」

「だ、だって」



タイミングもわからないし……。

触れるのを嫌がられるかもしれない、とか。

鬱陶しいやつだと思われたらどうしよう、とか。

色々考えちゃう。



「こういうの、慣れてない、から」

「どーだか」

「ほんとだよ」

「……ふうん?」



いったい、わたしのどこに疑いの余地があるんだろう。

出会ってからずっと、こんな風に余裕のなさすぎる振る舞いしか、できていないのに。



「んじゃ、俺からもひとつ確認」

「なに……?」



わたしの促しに応えるように、注がれていた視線がふと、わたしの口元へと下がる。

これからなにが起きるのか──予感したときにはもう、彼は伏し目がちにゆっくりと近づいてきていた。


あと少しで、唇が触れ合えるという距離。

そのもどかしさをわざと保ちながら、



「このまましていい?」



試すように、わたしの鼓膜を甘く揺らした。