Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-


降ってきた声色は、慰め、というよりは、淡々と意見を述べている、という感じのもの。



「かっこ悪くねぇから。安心しろよ」



わたしは唇をキュッと結んだ。


……胸の内側を、あやすように撫でられたみたい。


彼の言葉に、長いこと張り詰めていた氷が溶かされて、そこから、波紋が広がっていく。

こちらを見守ってくれている広い海そっくりに、わたしの心もゆったりと波立った。



「……あの。ありがとう」

「おー」



くすぐったい。

その感覚は膨れ上がっていって、抑えることが難しくなっていく。


流れ出てくる感情の行き場に困ったわたしは、柵の上で指先を弄んだ。


海辺の寒さなんて、先ほどまではちっとも気にならなかったはずなのに。

昨日の、左手に感じた熱を、とても恋しく感じる。



「……あの」

「うん?」



わたしは少し躊躇ってから、



「手……」



昨日と同じように、呟いた。



「手?」



暗闇ばかりを映し出している水面とは違って、彼の瞳はしっかりと、わたしを映してくれる。

途端に緊張に襲われ、はやまったかも、なんて尻込みした。

けれどもう、口に出してしまったのだから手遅れだ。



「……なに?」

「……」

「手が、どーしたんだよ」



答えないわたしに、彼は後押しする調子で続きを求めてくる。

何もかも見透かしたような、余裕の表情を浮かべて……。


うう。
欲に負けてしまった。


わたしは少しだけ後悔をしながら、



「……手、……繋ぎたい……」



「いい……?」と、敗北を宣言するように絞り出した。