「槙野だったら、何味にする?」

学校に着いて教室に入ると、家が近いのに、いつも登校も早いヤヨちゃんはもちろん居て、珍しく涼太も居た。

それぞれの席でヤヨちゃんは違う友達とお喋りをしていて、涼太は机に突っ伏して眠っている。本当に眠っているかは分からないけれど。

「おはよう。あれ、制服、珍しいね。」

「うん。ジャージ、渇いてなくて。」

おはようって言ってくれた友達に返事をする。やっぱり、誰が見ても「今日の僕」は珍しいんだ。

喋っている僕を、ヤヨちゃんがチラッとみた。僕の足元を見たけれど、それだけ。何も言わないし、近寄っても来ない。すぐに僕から目を逸らして、また友達と楽しそうにお喋りをしている。
ヤヨちゃんの机のサイドには絵の具道具が掛かったままだ。ヤヨちゃんと涼太は気づいたかな。

そんなことはもうどうだっていい。
僕はゆっくりと自分の席に向かった。教室のど真ん中。右隣が涼太。この席になった時、ヤヨちゃんはすごく拗ねていた。

椅子を引くとガタンっと音がした。
涼太が枕にしていた腕から顔を上げて、僕を見て、「どうした?」って言った。おはようよりも先に。

「何が。」

僕は涼太を見ないで言った。

「制服。」

「学校なんだから普通でしょ。どうしたって何。」

かなり嫌な言い方をしていることは分かっている。八つ当たりくらいさせてくれ。
涼太は窓の向こうを見ながら「ハーフパンツで来れば良かったじゃん。」と笑った。見透かしている様な顔がいけ好かない。
それから続けて「一時間目始まるまでは雨、やまなそうだな。楽しみだなぁ、体育。」と言った。
僕は何も言わずに席に着いた。

なんでこんなに平気でいられるんだろう。記憶喪失?昨日のこと全部忘れちゃったのかな。もしそうなら方法を僕にも教えて欲しい。
なんなら僕は謝って欲しいくらいだ。元はと言えば、原因を作ったのは涼太なのに。
そう思ったけれど、本当に涼太が悪かったのか、分からない。

ヤヨちゃんを最初にかなしませる火種を作ったのは涼太かもしれない。でも僕がヤヨちゃんに嫌われてしまう引き金を引いたのは、僕自身だ。

僕は涼太に新聞紙のお礼を言わなかった。もしも少なからず涼太にも原因があるのなら、それくらいチャラだ。
涼太も、嘘をついたヤヨちゃんだって悪かったんだって、そう思わないと僕はもう、生きていく気力すら失くしてしまいそうだった。
それくらい、僕の世界ではヤヨちゃんが全てだった。