「槙野だったら、何味にする?」

ヤヨちゃんは僕を睨みつけるように見ている。ヤヨちゃんのこんな目は初めて見る。頬っぺたには涙が伝っている。
去年の冬、ヤヨちゃんと二人で涼太を待っていた放課後。あの日の窓に伝っていた雫みたいだなって思った。綺麗だって思った。その涙を流させてしまったのは僕だ。

ヤヨちゃんはゆっくり、だけどハッキリとした口調で言った。

「例えりょうちゃんを好きでいることをやめたとしても、槙野のことは絶対に好きにならない。」

そう、きっぱりと言って、ヤヨちゃんは雑に鞄を掴んで教室のドアの方に乱暴に歩いていく。

「待って…、ヤヨちゃん!ヤヨちゃん、ごめん…、待って。」

僕の声は届かない。ヤヨちゃんは振り向かない。頬っぺたがムズムズする。僕の、涙が流れ落ちていくからだ。

槙野のことは絶対に好きにならない。絶対に好きにならない。絶対に…。

頭の中で何度も何度も繰り返す。

槙野のことは絶対に好きにならない。

ヤヨちゃんの声が響いて、耳鳴りみたいに繰り返して、涙が止まらない。

絶対に。絶対に、ヤヨちゃんは僕を好きにならない。

しゃがみこんで体育座りになって、膝に顔を押し当てた。ジャージに涙が染み込んでいく。ツン、とペンキのにおいが鼻をつく。

ヤヨちゃんはもう戻ってこない。
ごめんなさい。ヤヨちゃん。全部、本当なんだよ。ヤヨちゃんを好きなことも、今更取り消せない、酷い言葉も。
ヤヨちゃんを好きだから。ごめんなさい。