「槙野だったら、何味にする?」

「何か食べれそう?薬飲まなきゃ。ゼリーとかなら食べれる?僕、買ってくるよ。」

ゆっくり額から手のひらを離して、床に置いてしまっていたタオルハンカチを取って、床から腰を浮かした。

その僕の腕を、ヤヨちゃんが掴んだ。

「行かないで。」

「ヤヨちゃん?」

「行かないで。何も要らないから。」

ヤヨちゃんは僕が来て初めて目を開けて僕を見た。僕は中途半端に浮かせていた腰をおろして、また床に座り直した。

寂しいんだろうと思った。体調を崩していたら心細いのも分かる。僕が座って、ヤヨちゃんは安心したような目をした。

「涼太を呼ばなかったの?」

「呼ぶわけないじゃん。」

「なんで。」

「こんな姿、見せれるわけないよ。顔だって洗ってないし汚いもん。」

「そうだね…」

ヤヨちゃんは不服そうな顔をする。

「そうだねって。やっぱり私、汚い?」

「汚いわけないじゃん。」

右の手首をヤヨちゃんに掴まれたままだったから、目にかかってしまいそうになっているヤヨちゃんの髪の毛を、左の人差し指ですくってサイドによけた。掴まれた手首にヤヨちゃんの熱が伝わる。

溶けてしまいたい。
このままヤヨちゃんの熱で溶けてしまえたらどんなにいいだろう。

涼太のこともヤヨちゃんのことも忘れてしまって。