「槙野だったら、何味にする?」

なんて思っていたのが一週間前。朝のホームルームで担任が告げた「席替えするぞー。」の地獄の一言。
湧き立つ歓声。どこからか聞こえてくる「今日、朝の占い一位だった!ラッキー!」の謎の確信。その占いの信憑性がそんなに高いのなら、僕はきっと十二位だったはずだ。

「槙野!席替えだってー。たのしみー!」

なんでみんな席替えがそんなに好きなの。生徒がみんな席替え嫌いだったら、教師だってこんなイベント一生しないでいてくれたのに。
それでさ、ねぇ、ヤヨちゃん。ヤヨちゃんも席替え、うれしいんだね。

「ヤヨちゃんも一位だったの…」

「へ?何が?」

「ううん。何でもない。涼太の近くになれたらいいね。」

ヤヨちゃんが顔を真っ赤に染める。「そんなこと思ってないよ!」なんてバレバレの嘘をつきながら。

ヤヨちゃんは今日も可愛い。僕に向けられた表情じゃなくても。涼太をチラッと見ると、のん気にあくびなんてしちゃってる。綺麗な顔で。
悔しいけれど、お似合いだ。
だってこんなに可愛いヤヨちゃんと、あくびしてるくせに綺麗な顔の涼太だ。

一番前の席の人から順番にくじを引いていく。一枚、また一枚と、ヤヨちゃんと近くになれる確率が減っていく。残り物には福がある?だってそれじゃあ、ヤヨちゃんだってその対象だ。三人が同じ班内なら一番最高。だけどそんな奇跡は起こらない。

数少ない中から選んだくじ。まだ開いてもいないのに、僕は手のひらでグシャッと握りしめていた。