「槙野だったら、何味にする?」

「昨日、ベッドに入ってからさ、また夏休みのお泊まりの日のこと、思い出してたんだよね。」

ヤヨちゃんが言った。僕は黙ってヤヨちゃんの言葉を聞いた。

「一緒に寝たの、二回目だったよね。」

「うん…。」

「あの時は、槙野がりょうちゃんと寝るって言い張って、おばさんがすごく怒ってて。」

ヤヨちゃんはあの時のことを鮮明に思い出した様に、笑っている。

そう、あの日、高校一年生の文化祭の時期。僕達のクラスも催し物に参加していた。お化け屋敷はやりたいクラスがたくさんあって、最低ニクラスまでということになった。各クラスの委員長同士がじゃんけんをして、僕達のクラスは見事お化け屋敷を勝ち取った。
委員長は、そうだ。今の、生徒会長だった。

僕達はお化け屋敷で使う衣装が間に合っていなくて、衣装係十人のうちの五人で、一泊二日の泊まりがけで「文化祭合宿」をした。

男子は、涼太。一人だけ。
残りの四人は全員女子。僕も含めて。

僕はどうしても、女子達と一緒に寝ることに抵抗があって、涼太と寝るって言い張った。母さんは物凄く怒った。小声で「何てこと言うの!」って言いながら、そして僕を叱りながらも母さんが冗談で「りょうちゃんは私と寝る?」なんて言って、周りの雰囲気を和らげた。和らいだのかは知らないけれど。

あの時はさすがのヤヨちゃんも他の二人の女子もびっくりしていて、「槙野、どうしたの。」なんて笑ってた。

涼太は「おじさんに殺されます」なんて笑いながら、僕に「おやすみ。雫。」って言って、僕の部屋を出た。涼太は一人で一階の和室に寝た。

その日が、涼太が僕を「雫」って呼んだ、最後の日だった気がする。
その日涼太は確信したんだと思う。僕の中にある違和感や葛藤、どうしてもヤヨちゃん達と寝れなかった理由を。