「槙野だったら、何味にする?」

次の日の朝は当たり前にやってきて、同じ様に電車に乗って、学校に向かう。校門をくぐって、下足箱で靴を履き替える。一年生の時も、二年生の時も、今も同じ。下足箱は出席番号順で、僕の下がヤヨちゃんの場所。三年間、変わらなかったことがあるとすれば、これだけかもしれない。

階段をゆっくりと、三階までのぼる。教室の前の自動販売機はいくつか売り切れの赤いランプが点いていて、ヤヨちゃんが好きなココアも売り切れている。早く補充してあげて欲しいなぁなんて思いながら、僕は教室のドアを開けた。

「まきのー!おはよう!」

教室に入ったら、僕をすぐに呼んで、ヤヨちゃんが駆けてくる。この光景がもうなんだか夢みたいでグッときた。

「ヤヨちゃん。おはよう。」

僕も笑って答えた。ドアの傍の席に座っていた生徒会長と目が合って、生徒会長は子供を見守る母親みたいな目で笑っていた。

僕は鞄を置きに自分の席に向かった。ヤヨちゃんも後ろからついてくる。右隣の席にはもう涼太がいて、腕を枕にするいつものスタイルで寝ている。朝のホームルーム前に、このスタイル以外の涼太をあまり見たことがないかもしれない。

「りょうちゃん。おはよう。」

ヤヨちゃんが涼太を揺すって起こした。涼太はゆっくり顔を上げて、「ああ…おはよう…。」と言った。もう、嫉妬はあんまりしなかった。
ヤヨちゃんと涼太がまたお喋りする様になって良かったって思った。
昨日のヤヨちゃんの涙は僕の制服が吸い込んで、渇いて消えてしまった。ヤヨちゃんには笑っていて欲しい。どんな時でも。世界中で一番。

「涼太、昨日後夜祭居なかったの?」

僕が訊いた。涼太は両腕を伸ばして背伸びをしている。

「お前ら後夜祭も居たの?元気だなぁ。」

同級生なのに、涼太はおじいちゃんみたいなことを言った。それからまた同じスタイルになって、「ホームルームまで寝る…。」って言った。
よっぽど疲れているのか。実行委員なんて柄にもないことやったからかな。僕も本当は燃え尽き症候群というか、けっこう疲れていたけれど、それよりもヤヨちゃんと仲直り出来たことの方が幸せで、疲れなんて吹き飛んだ。

ヤヨちゃんは呆れた顔をしながら、僕を見て、言った。

「槙野、ちょっといいかな。」

ヤヨちゃんが教室から出ようと僕を促す。ホームルームまで、まだ二十分以上はあった。涼太の前では話せないことかな。僕は少しドキン、ってしながら頷いた。