「槙野だったら、何味にする?」

「これ。おばさんが食べてって。」

僕は、おばさんがくれたアイスキャンディーを顔の高さまで持ってきた。

「何でアイス?風邪引きそうってあんだけ言ってたくせに。」

涼太はベッドの上に座りながら、呆れた顔をしている。涼太はアイス食べないからって、おばさんは一個だけくれた。ソーダ味。木の棒が二本付いていて、真ん中で割れるやつ。

僕は二つに割ったけれど、真っ二つには割れなかった。片方だけが大きくて不恰好だ。
涼太に一本を差し出した。涼太は要らないって言ったけれど、溶けちゃうから食べてって、言ったら、涼太は僕が差し出した方とは違う、小さい方を受け取った。

「ていうか、宿題は?」

「あ。」

涼太に言われてやっと気がついた。僕は手ぶらだった。涼太の家には徒歩で来れるし、家には母さんが居たから、財布も鍵も持ってきていない。
返事をしようがしなかろうが、もう既に分かっている答えに、涼太はさっきよりも呆れた顔をした。

涼太はアイスキャンディーを食べてしまうのが早かった。僕は喋りながら食べていたから遅くて、アイスキャンディーはだんだん脆くなっていた。
棒から滑り落ちそうになっているアイスキャンディーを、一口で食べてしまおうとしていたら、口に入れてしまう前に、崩れて落ちた。

ボタボタっと落ちたアイスキャンディーは、涼太と同じようにベッドに座っていた僕の太ももに落ちた。ハーフパンツだったから冷たい。

「あーあ。」

涼太は立ち上がって、机の上からウェットティッシュを取ってくれた。ベッドに戻ってきて、拭いてくれようとしている涼太からウェットティッシュを受け取った。

「ありがとう。ごめん、ベッドにちょっとこぼれちゃったかも。」

「いいよ。」

「でもシミになっちゃうかも。それに涼太の服も汚しちゃった。おばさんに謝らなきゃ。」

「大丈夫だろ。これでチャラじゃん。」

涼太は笑っている。僕にとっては笑い事じゃないのに。

ソーダ味のアイスキャンディーは、食べ切る前に消えてしまった。木の棒だけが僕の手に握られている。

今日は一段と蝉の合唱がうるさい。命を燃やしている感じがした。涼太の部屋は冷房が効いている。着替えをした時にドライヤーも借りたから寒くはない。

こんなに蝉の合唱がうるさいはずなのに、遠くに感じる。

涼太の匂いがした。

洗濯洗剤や柔軟剤じゃない。涼太の匂い。

何が起きたか分からない僕に、涼太が「甘いな。」って言った。

食べ終わったはずのソーダ味がした。