「槙野だったら、何味にする?」

校舎裏はグッと暗さが増した。校舎の電気もほとんどが消え始めていて、後夜祭もそろそろ終わろうとしている。
賑やかだった運動場や体育館からの音や声が、遠く聴こえる。

涼太は本当にどこに行ったんだろう。文化祭が終わってから、一度も顔を見ていない。もう帰っているのかもしれない。後夜祭は強制参加じゃないし。
涼太のことだからきっと、疲れて眠たかったんだろう。本当だったら高校最後の文化祭。後夜祭も三人で一緒に居たかった。僕も本当だったら、後夜祭に参加しても意味が無かったし、帰ろうかとも思ったけれど、参加して本当に良かった。帰ってしまっていたら、こうやってヤヨちゃんと話すことは、もうずっと出来なかったかもしれない。

「風、だいぶ出てきたね。寒くない?」

ヤヨちゃんはスカートだし足が寒そうだったけれど、シャツの上からジャージの上着を羽織っている。

「平気だよ。」

ヤヨちゃんが言いながら、ベンチに座った。その隣に僕も座った。僕とヤヨちゃんの間には、もう一人座れそうなくらい間があった。

「もう少しこっちに来て。」

ヤヨちゃんが前を見たまま言った。ヤヨちゃんからもう少し近づく様に言われて、ドキドキしながら、僕は人一人分の間を埋めた。

近づいた僕の方に、ヤヨちゃんが体を向ける様にして、少しだけ横を向いた。ヤヨちゃんの顔が近い。

「ごめん。寄りすぎちゃった。」

言いながら僕は、二十センチくらいヤヨちゃんから離れた。ヤヨちゃんが近すぎて、僕の心臓がもたない。

ヤヨちゃんは、気にしすぎって笑った。

「槙野、まずはちゃんと、仲直りしよう。本当に酷いことを言ってごめんなさい。私、最低だった。」

ヤヨちゃんがシン、とした校舎裏で、誰も居ないけれどいつもより少し声をひそめる様に、ゆっくりと言った。
僕達の前には花壇があって、その奥には桜の木が三本。まだ咲いていない桃色の花を、暗闇の中で想った。

ヤヨちゃんの声を聴きながら、僕もヤヨちゃんの顔をしっかりと見た。