「槙野だったら、何味にする?」

「火が無いね。」

線香花火を受け取ったものの、火をつけられる物が近くにない。ロウソクの所まで行く?ってヤヨちゃんに訊いたけれど、ヤヨちゃんは制服のスカートのポケットからスッとマッチ棒の箱を取り出した。

「バケツ置いてる所にあったから持ってきちゃった。」

「危ないなぁ。」

「危ない」っていうのは、マッチ棒を置きっぱなしにした人と、勝手に持ってきたヤヨちゃん、両方だ。

「槙野は今日もジャージなんだね。」

ヤヨちゃんが言う。

「うん。」

僕は制服の下に着ているジャージを眺めながら頷いた。
ペンキの水色は、結局取れていない。くすんだシミみたいに、そこに在り続ける。

ヤヨちゃんがマッチ棒を一本取り出して、箱の火薬に擦ろうとする。それを僕が止めた。

「僕がやるよ。」

箱とマッチ棒を受け取って、シュッと擦る。ぼわっと火が灯る。まるで命みたいに。
火をつける為に一旦地面に置いた線香花火を持ち直して、ヤヨちゃんと同時に火をつけた。

線香花火の先の、火薬が包まれた濃い朱色の紙ががチリチリ燃えて、そしてそのまま火は消えた。僕の線香花火も、ヤヨちゃんの線香花火も。どちらの線香花火にも花は咲かなかった。

僕らは一瞬の沈黙の後、顔を見合わせて笑った。

「ハズレだね。」ってヤヨちゃんが言って、「シケてたんだね。」って僕が言った。
この線香花火はたぶん、クラスメイトが駄菓子屋さんの余りを貰ってきてくれたやつだ。ちゃんと火がつくかどうか、くじびきみたいで、駄菓子屋さんっぽくて僕はなんだか好きだった。

遠くで担任がジュース買ってきたぞって大声を出している。その声の方へ、みんなキャーキャー言いながら集まっていく。
僕とヤヨちゃんの周りは少しだけ静かになった。

「ヤヨちゃん、ジュースいらないの?」

「うん。大丈夫。槙野、足疲れちゃったし、あっち行って座らない?」

あっち、と言いながらヤヨちゃんが運動場の向こう側を指差した。体育館とは反対側の、校舎の方だ。その先が、校舎裏の花壇のことだって分かった。校舎裏には花壇があって、そこにはベンチが設置してある。花園部が綺麗に手入れしてくれている花壇や、桜の木があって、春になるとその桜がすごく綺麗で好きだ。

「うん。行こうか。」

ヤヨちゃんに頷いて、僕達は立ち上がった。