「槙野だったら、何味にする?」

保健室のドアをノックして開ける。書き物をしていたのか、座って、机の上に何かの書類を広げている先生と目が合った。

「あら。今日は雨だから来ないと思っていたのに。」

この保健室の先生は、一年生の時からずっと、僕のクラスの体育が何曜日の何時間目に割り当てられているか把握している。こんなに仮病を使っていれば当たり前だけど。体育の成績はずっと悪い。運動神経が悪いわけじゃない。反射神経だって優れている。今日みたいに。…って思いたいけれど、仮病と運動神経、両方が原因かもしれない。
将来の夢はスポーツ選手じゃないから、どうでもいいんだけど。

「バスケのボールが手に当たっちゃって。湿布貰って来いって。」

はいはい、と言いながら先生は椅子から立った。

「お仕事ですか?」

僕は机の上の書類をチラッと見ながら言った。先生は、「そりゃ仕事じゃなければ来てないわよ。」と言った。

先生が棚の救急箱から湿布を一枚取ってきて、「どこ?」と訊いてきた。

「いや、本当は要らないんですけど。腫れてもないですし。」

僕は右の手のひらを見せながら言ったけれど、先生は一瞬僕の手のひらを見てから、「嘘。」と言った。それから僕の手をくるっと裏返して「こっちでしょ。」と言った。

右手の甲が赤くなっている。腫れてるっていう程ではないけれど。

「あ。」

「咄嗟だったのね。」

先生は言いながら、湿布を貼ってくれて、「よしっ!」と言いながらその上をペシっと叩いた。ボールが当たった時よりも、そっちの方が痛くて苦笑いした。

体育館に戻って、体育の先生に声をかけた。ボールが当たっただけだし何ともないけれど、この後痛んだらいけないからって、久しぶりに出席した体育も、僕は結局見学になった。

涼太のチームと元バスケ部男子のチームの試合は、元バスケ部男子のチームが勝ったらしい。