「槙野だったら、何味にする?」

チーム分けが終わって、二つのチームで試合をする。もう一つのチームは応援。

僕は、ヤヨちゃんと同じチームになった。一試合目の対戦チームは、涼太のチームだ。
僕もヤヨちゃんもほとんどボールを追いかけているだけだったし、ヤヨちゃんは敵チームなのに涼太のことばかりを見ていた。
同じチームの僕には目も合わせてくれないのに。あんなことがあってもヤヨちゃんもやっぱり涼太のことが好きなままで、僕だって同じだった。

案の定、僕と同じチームになった元バスケ部の男子と、涼太の試合は白熱して、プロの試合かと思うくらい盛り上がった。僕はプロのバスケの試合を見たことが無いけれど。

体育の授業だと思えないくらい白熱していたし、ヤヨちゃんは涼太ばかり見ていたから、ヤヨちゃんは気づくのが遅かった。
パスをしようとしたボールがヤヨちゃんの方に飛んできていることに。僕はヤヨちゃんのほとんど真横に居て、ヤヨちゃんのことも涼太のことも見ないようにしていたから、まるで真剣にバスケに向き合っているみたいにボールばかり見ていた。
ヤヨちゃんの方に飛んでくるボールに、ヤヨちゃんが両手で頭を抱えて俯く。
僕は咄嗟に右手を伸ばしてボールをカットする。

「危ない!」

スローモーションみたいだった。本当はほんの一瞬だったと思うけれど、スローモーションみたいにボールが床でバウンドして、ヤヨちゃんがゆっくり顔を上げて、先生が笛を吹きながら小走りしてくる。

「槙野、大丈夫か?一応保健室で湿布貰って来い。」

「いえ、大丈夫です。手のひらでちゃんとカットしました。」

僕は手をひらひら振りながら言った。
でも、先生は「駄目だ。痛みは後から来るんだ。お前は体育のド素人だろ。」って言った。

結局僕は、湿布を貰いに保健室へと向かった。ヤヨちゃんが僕を見て、一歩、僕の方に寄ってくれたけれど、先生が「一人で大丈夫か?」と言って、「湿布くらい一人で貰えます」と僕は笑った。
ヤヨちゃんは僕をずっと見ていた。
それだけで十分だと思った。ヤヨちゃんが怪我をしないで済んだ。僕は初めてヤヨちゃんを守れた。ヤヨちゃんが踏み出してくれた一歩が、死ぬほどうれしかった。