今宵も甘く咲く ~愛蜜の贄人形~

普段はバイクの彼が今日は車だった。ネイビーカラーのワーゲン、スポーツタイプの。・・・どちらかと言えば叶のイメージだと思う。

「時雨はランクルとか・・・、RVに乗ってそうなのに」

「お前、見た目で言ってんだろ」

あたしの変な感心に少し呆れ顔が向く。だってどう見てもアウトドア派で、冬はスキー夏はサーフィン・・・みたいな?

「言っとくけどな、これでもスーツ着る機会は多いんだ」

「うそぉ?!」

「あーハイハイ」

ったく、と大仰に溜息を付いて見せるから。あたしは可笑しくなって声を立てて笑った。

「少しは生き返ったか?」

時雨が、クスリとあたしの髪を撫でた信号待ち。

・・・そんなに死んでたのかな、あたし。
叶にはそう見えてた。だから彼を呼んでくれたのだ。

「・・・ごめんね」

「何が」

「だって時雨は夜行性だし、いつもなら寝てる時間でしょ?・・・無理しなくて良かったのに」 

「いいや、這ってでも来るね。叶がフラれたなんざ、棚ボタ以外のナニモノでもねーし」

「振ってなんか無いってば!」

渾身の抗議。人聞きが悪いったら。

「叶も随分と太っ腹だな。オオカミと赤ずきんを一緒にドライブさせようってんだから」

そんな風に言ってシニカルに時雨は笑う。