胸の内が騒ぎだした。



……可愛い。




あれは反則でしょ。







掴まれた制服の裾。


鈴が鳴ったみたいな可憐な声。



オレにくれた、「半分っこ」したガム。




心臓がドクンドクンと動くたび、全身に恋心が広がっていくみたいだった。









……さやかちゃんは、あの日からずっとオレの世界の中にいる。





約束したお菓子の半分っこは、まだ貰ってない。


「もう何回も会ってるけど」

ひとりクスクス笑う。

さやかちゃんって、忘れっぽいのかな?


そこがまた可愛い。



「兄貴、何でひとりで笑ってンの?」

気づくと部屋に妹の里帆(りほ)が入ってきていた。



「は?笑ってねーし」



「いや、キモいから」


「何の用だよ」


「お風呂、お先!って言いに来たんだって。そしたら笑ってるんだもん、ひとりで。まじで怖いし」


「はいはい、キモくて怖くてごめんなさいね」
里帆の背中を押して部屋から追い出して、オレも風呂に入るために1階におりた。