「透子、もう食べないのか?」

「……いらない」

「おい、透子……?」 

 わたしはそのまま寝室に入り扉を締め、ベッドに潜り込んだ。  

「藍……」

 やっぱり何も言ってくれないんだ、朝のこと……。あんな場面、見なきゃ良かった……。
 藍の後なんて、付けなければ良かった……。なんて、後悔ばかりが押し寄せてくる。

「透子、どうした? 大丈夫か?」

 寝室のドアをノックした藍は、そうドア越しに問いかけてきた。

「透子、やっぱり体調悪いのか?」

 それでも何も言わないわたしに、藍は「入るぞ」と声をかけてから、ドアを開けて寝室に入ってきた。

「透子、どうした?何かあったのか?」

「……うるさい。一人にして」

「透子、何を怒ってるんだ?」

 怒ってる? そりゃあ、あんな場面を見せられたら、怒りたくもなるに決まってるでしょ……。
 夫である藍とあの女の、キス現場を目撃してしまったのだから。そんなの見せられたら、怒るに決まってる。

「なぁ、透子。どうしたんだよ?」

「別に、なんでもないよ」

 藍がわたしを心配しているのか、わたしのそばへとやって来る。

「そんな訳、ないよな? 体調悪いなら、病院行くか?」

「うるさいな……。あっち行ってよ!」