わたしは遠くから、その様子を眺めていることしか出来なかった。
会話なんて聞こえないけど、何かを話していることだけは分かる。
「……藍?」
誰?その人……。そう思っていると「藍っ……待ってよ……!」と声が聞こえた。
女の人は声を荒げたようだ。 女の人は、スタスタと歩き出す藍の腕を掴んでそれを阻止していた。
「……離してくれ」
藍は女の人の腕を振り払い、歩きだしてしまった。
もちろん、わたしになんて気付いてるはずもない。
「藍!待ってよ! 行かないで……!」
「俺に付き纏うのはやめろ!」
藍が珍しく感情的になってる……?
「……なに、あれ」
誰よ、あの女……。明らかに藍のことを名前で呼んでいた。 だけど友達って感じでもなさそうだった。
もしかして……。藍の元カノ? それしか考えられない……。藍の態度、ちょっとおかしかったし。
「ムカつく……。何なの」
そんなものを見てしまって気分の悪くなったわたしは、気分転換に散歩することにした。
忘れ物を渡そうとしただけに、なんであんな場面を見ることになる訳……?
「訳分かんない……」
藍のヤツ、元カノとまだ切れてないとか……?
もしそうなら、ちょっと厄介なことにもなりかねない気がする。



