「女将……本当にいいんですか?このままで」
わたしは高城明人が帰った後、女将に向かってそう問いかけた。
「そうですよ、女将!いいんですか、このままで!?」
「……仕方ないわよ」
だけど女将は、それだけしか答えなかった。
「仕方ないって……。女将は悔しくないんですか? ここが無くなるかもしれないんですよ!?」
「悔しいに決まっているでしょ!? 悔しいわよ、すごく……」
「じゃあなんで……!」
女将は高城明人から渡されたその紙を見つめたまま、話し始めた。
「仕方ないのよ……。夫が死んでから、わたしがここの責任者になったけれど、わたしは経営者としては半人前だったってことよ。……わたしじゃ、力不足だったのよ」
「そんな……。そんなことないですよ」
女将の旦那さんは、ガンで十年前に亡くなった。その後は女将が経営者として、夕月園やわたしたちを守ってきてくれた。
従業員たちが働きやすいような環境を作るために、女将自ら従業員の要望を聞き入れ、やりやすいように工夫しながらここまでやってきたのに。
「そんなことないです。……女将は、女将は立派な人です。 女将はずっと、わたしの憧れの人です。わたしの目標です。女将の背中を見て働いてきたからこそ、そう思います」



