「わたしも知らない言うたんやけど……。知ってたら教えてほしいって言われてね」

「そう……だったんですか」

 どうして彼は、そこまでしてわたしを探したのだろうか……。

「まさかこんな所で働いているとは、夢にも思ってなかったけど……。でも元気そうで良かった」

 そんなことを言われたわたしは、女将さんに「心配かけて、すみません……」と答えた。

「ええんよ。気にせんといて」

「……はい」

 高城藍と出会ったのは、偶然なんかじゃなかったんだ……。これは必然だった。
 出会わなければ良かったのになんて、思っていたのに……。

「……アンタ、もう旅館の仕事には戻らへんの?」

 女将さんからそう問いかけられたわたしは「……女将さんと一緒に働くことが出来ないのなら、働く意味なんてありません」と答えた。
 
「夕月園はわたしにとって、家族みたいなものだったし……。家族を奪われた今、もう旅館で働く意味なんてありません。 女将さんと一緒に働くことが、何よりわたしの幸せだったんですから」

 女将さんと働けないのなら、わたしはもう若女将としての仕事には戻れない……。

「……夕月園は、わたしの大切な宝物だったんです。許せる訳、ないです」