「……大丈夫ですよ」

 わたしはアイツとなんて一緒にいられる自信はない。 そもそも、住む世界が違うあの人と、これから一緒に暮らせる勇気もないんだから。

「分かった。くれぐれも、無理はせんようにね」

「ありがとうございます」

 子供の父親は、確かに高城藍だ。産むと決めた以上、その覚悟は揺らぐことはない。

「あ、もう戻らなきゃやね」

「そうですね」

 休憩を終えて店内に戻ると、とある人物が目に入ってきた。

「……え?」

 そこにいたのはーーーー。

「久しぶりやね、透子」

「え……。女将、さん……?」

 夕月園の元女将、野本夏乃(のもとなつの)さんだった。
 でもなんで、女将さんがここに……?

「元気やった?」

「え、女将さんがなんで、ここに……?」

 わたしがここで働いていることを、わたしは夕月園の人たちにも、誰にも言ってなかったのに……。
 どうして分かったのだろうか……。

「高城ホールディングスの人に聞いたんよ。アンタがここで働いているって」

「え、高城ホールディングスで……?」

「ええ。……言うてなかったんやけど、うち今は別の旅館で働いているんよ」

 え?別の旅館って……?夕月園以外の旅館で?
 知らなかった……。

「そうなん……ですか」