その原因になったのは、夕月園から車で十分くらいの所に建設された、新しいリゾートホテル【カナリア】であった。 
 京都の雰囲気には似つかわしくない大型のリゾートホテルの中には、有名なホテルのシェフが作る高級なバイキングレストランやサウナなども完備しており、ホテルの屋上には大きな広々としたプールも完備してある。
 
 京の街には決して相応しいとは言えないその大胆な戦略は、日本だけでなくたちまち海外にまで話題を呼ぶこととなった。

 そしてカナリアは、その大胆な戦略のおかげもあり若いカップルだけでなく、家族連れにも人気のホテルとなった。
 今ではカナリアは、京都だけでなく名古屋や沖縄、博多などにも建設しており、高城ホールディングスの社長、高城明人(たかじょうあきと)は世界的にも有名な人となっていた。
 その息子で高城ホールディングスの御曹司である高城藍(あおい)もまた、将来高城ホールディングスを担うであろうお人だ。

 そしてそのカナリアが新たな戦略に出たのは、高城ホールディングスが急成長を遂げたすぐ後のことだった。
 京都に最初のリゾートホテルを建設してからニ年後の秋。夕月園は経営難に陥り、旅館の存続が難しいところまで来てしまっていた。
 客足は完全に落ち、そして遂には旅館への予約すら無くなったーーー。