「しかし、お嬢様が戸惑いになるお気持ちはよくわかります。今後の人生を左右されるようなことですし、おまけに恋のことですからね」
 寄り添うような言葉にそのショックは去ったけれど。
 恋のこと。フレンからこんな話題を出されようとは。
 急に、きゅっと胸の奥が反応した。痛みなのか、嬉しさなのか、恥ずかしさなのか、よくわからない反応だった。
 恋というものについて、フレンと話したことならある。けれどそれは幼い頃に、恋物語の本を読んでもらったとか、あるいは親族の結婚式があるとか、そういう機会だけで。『恋とはどういうものか』『どういう気持ちを恋というのか』とか、その程度で。ある意味教育の一環でしかなかったのだ。
 ここ数年はそういう話もしていない。グレイスがお年頃になってから、は。
 多分フレンのほうが気を使ってくれていたのだと思う。どういう意図かはわからないけれど。形にとらわれずに、自由に恋をしてほしいとか、そういう気持ちだろうか。
「そう、ね……そうよね」
 グレイスはただ相づちを打つしかなかった。
 恋について。今、フレンと話せるものか。そしてフレンも追及してこなかった。「お嬢様は今、恋しておられる方はいらっしゃるのですか?」などと。そんな不躾なことは。
 訊かれたとしても、答えられるはずがないのだから助かるのだけど。フレンが優しく、また節度あるひとで良かったと思うばかりだ。