その日、グレイスはレイアに呼び出しを受けた。『グレイスの屋敷に訪ねていく』と遣いがやってきて、その翌日、レイアがお付きを伴って訪ねてきてくれたのだ。
 呼び出されたのは客間。普段使うものではなく、屋敷のかなり奥に位置する客間だ。おそらくより人払いができる場所を選んでくれたのだろう。
「グレイス、大変なことが起きたのね」
 グレイスが「失礼いたします」と入っていってすぐに、レイアがソファを立ってやってきてくれた。そして一も二もなく真っ先に、グレイスをぎゅっと抱きしめてくれたのだ。
 その体は僅かに震えていて、グレイスの襲撃にどれほど驚き、心痛めてくれたのかを表しているようだった。
「私がもっと警戒しておくべきだったわ」
 グレイスを強く抱いてかけてくれる言葉。泣き出しそうなほど嘆く声だった。
 しかしもう終わったことだ。それにレイアのなにが悪いというのか。
 グレイスはレイアの心配と抱擁に、安堵と喜びを同時に覚えた。自分からもレイアに抱きつく。
「いいえ、おばあさま。無事だったのです。どうかお気になさらずに」
 それでソファに落ちつき、使用人がお茶を持ってきた。
 それがフレンでなかったのにグレイスはちょっと疑問を覚えた。自分にお客、まぁ身内なのであるが、お客がやってくるのはフレンも把握していたのに、どうしてお茶が彼ではないのか。けれどすぐにレイアの話に耳を傾けることになった。
「グレイス、私に任せてほしいと言ったわね。あれから色々調べてみたの」
 レイアはお茶を前にしたものの、手をつけずに切り出した。
「調べ物……ですか?」
 グレイスもお茶よりそちらの話に興味を惹かれた。
「フレンのことよ」
 言われたことにはちょっと息を呑んでしまう。
 フレンのこと。
 レイアがしてくれた『調べ物』。
 フレンに関係していることだろうというのは多少予想していたのだが、直接言われてみれば。
 それにきっと、この部屋に連れてきてくれたのも、お茶を持ってきてくれるのがフレンでなかったのも関係しているのだろう。