優勢なのは勿論、体勢をじゅうぶんに整え、待ち構え、襲い掛かってきた賊だろう。
 だが、グレイスの一行のアフレイド家も手練れの護衛がついている。戦闘になったとしてもじゅうぶんな能力を持つ者たちばかり。
 お願い、助かって、誰も、死なないように。
 グレイスは手を組んだ。神に祈るように、ぎゅっと、強く。
 突然、グレイスの乗った馬車に大きな衝撃が走った。
 ダァン! となにかがぶつかったような音。馬車が大きく傾ぐ。
「きゃ……!」
 グレイスは思わず悲鳴を上げていた。その体を執事長がしっかり抱きしめる。
「お嬢様! わたくしから離れぬように……!」
 途端、がしゃん、と大きな音がして馬車は横転した。グレイスは馬車の壁にしたたかに背中を打ち付けて呻いた。
 けれど執事長が抱いていてくれなかったら、体はまともに叩きつけられていたに違いない。
 そしてグレイスたちにとっての幸い。出口は上向きになった状態で止まったのである。
「……くそっ!」
 執事長が聞いたこともないような低い声でひとこと言い、バンッと扉を開けた。馬車の壁に乱暴に足をかけ、グレイスの手を掴む。
「お嬢様! 脱出いたします!」
「え、ええ!」