王妃が用意したドレスと王冠を身に着けたアデライトは、王都の大聖堂でリカルドと式を挙げ、馬車での移動では押し寄せた民達からの歓声に手を振った。  
 結婚したので白銀の髪は結い上げ、今後は寝る時以外は下ろす予定がない。その髪を今は王冠と白いレースのヴェールが飾り、馬車の動きに合わせて揺れている。

「聖女様!」
「おめでとうございます!」
「すごい人気だな……君は、私の自慢だよ」
「そんな……」

 式が終わり誓いの口づけを交わした為、リカルドは馬車に並んで座っている間、手を振りながらももう片方の手はずっとアデライトの手を握っていた。それに、アデライトははにかんだように微笑んだ。
 ちなみに民達に見せる為、馬車はゆっくりと王宮に向かっている。それはつまり、馬車が王宮に到着するまではこのままということだ。
 アデライトからすると、リカルドは一回目、そして巻き戻した今も『浮気者』としか思えない。そんな彼がアデライトにだけ執着しているのは、初恋の女性であるミレーヌの面影があるのと――恥じらっているふりをして、彼のように愛の言葉を紡がないせいだと思われる。

「よしよし」

 アデライトにだけ見えるノヴァーリスが、浮きながらアデライトの頭を抱き、撫でてくれていた。おかげで随分、慰められた。
 そんな彼は、リカルドとの夜には席を外してくれるようになった。結果、リカルドは毎晩訪れたので、夜はノヴァーリスと会えなくなってしまった。
 リカルドとの行為はノヴァーリスのおかげで耐えられたし、他の男に抱かれているところなど見られたくなどない。それ故、寂しいがノヴァーリスの気遣いをありがたく思っていると、しばらくしたらリカルドの子供を身ごもった。それ故、書類作業などはするがアデライトは部屋で安静にし、国王達はリカルドに王位を譲る手続きを取り出した。
 更に、子供というアデライトとの繋がりが出来たことで少し落ち着いたリカルドは、アデライトの体を気遣って夜の来訪を控えるようになった。おかげで、彼女はまたノヴァーリスと過ごせるようになったのである。
 ……そう、今のように。

「税を払わなくて楽が出来るのは、一時だけ。経済を回す為には、最低限の税は必要なのに……だから一回目では、税を払う為のお金を渡そうとしたのですが。王も貴族も、そして民も。目先の欲に囚われて、馬鹿みたいですね」
「みたいじゃなくて、馬鹿なんだよ」

 跡継ぎとなる王子、あるいは王女の出産が第一なので、仕事を終えたアデライトは部屋でのんびり刺繍をして過ごしている。そしてアデライトがそう言うと、傍らにいたノヴァーリスが笑いながら一蹴した。
 落ち着くまで、税を払わない。そして、そんな民の生活を最低限保証する為に、アデライトは流石に自分では行かなくなったが、炊き出しを続けさせた。おかげで、アデライトは未だに民からの人気者である。
 ……そうして、災害から二年経った今。
 民達は税を払いたくない故に最低限しか働かず、結果として民達は飢えこそしないが、豊かさや活気からは遠ざかり――今までのような収入を得られない貴族達の生活にもまた、影を落とすようになったのである。