一回目では、アデライトが知るのは断罪(ここ)までだった。今回のサブリナのように、パーティー会場から連れ出されたからだ。
 けれど、巻き戻ってから予想はしていた。サブリナを王太子妃にしたいのなら、断罪の後に場を収めようと動いただろう。
 ……そう、おそらく今のように。

「アデライト嬢」
「はい」
「一曲、踊ってくれないだろうか?」

 アデライトの前に立ち、断罪したのと同じ口でダンスに誘ってくる。眩しい笑顔で、アデライトに手を差し出す。言葉だけは疑問形だが、アデライトに断られるとは思っておらず自信満々だ。
 先程、アデライトのことを「王太子妃に相応しい」と口を滑らせていたが、流石に新たな婚約の話は父であるウィリアムを通さなければいけない。とは言え、こういった場で二回以上踊れば、恋人や婚約者など心に決めた相手と見なされる。おそらくだがそうして、外堀を埋めてくると思われる。
 話を戻すが目の前のリカルドだけ見れば、見目が良いので物語や芝居のようである。しかし、もう一度言う。一回目と違い、冤罪ではないにしてもリカルドは、子供の頃からの婚約者であるサブリナを情け容赦なく切り捨てたのだ。
 とは言え、内心はともかくリカルドの行動を咎める者はいない。
 他国からの来賓はともかく国王夫妻や貴族達、あと卒業生などこの場に居合わせた者達は、リカルドとアデライトが結ばれることを望んでいる。アデライトがサブリナより優秀だと、巻き戻ってからずっと見せつけてきた結果でもあるが。

(嫌なものから目を背けて、罪悪感を誤魔化す為に『真実の愛』に飛びつきたいんでしょう?)

 一回目のようにこの後、サブリナ達を斬首するつもりなら尚更だ。いくら罪を犯したからと言え、これから人を殺そうとしているのだから。

(その為に、私を利用するなんて腹が立つけれど……応えてあげる。あなた達の為ではなく、私の為に)

 王太子妃、そして王妃となってサブリナだけではなく、この場に居合わせている者達全てに復讐する為に。

「はい、リカルド様」

 心の中でそう決意すると、アデライトは緊張しつつも決意した表情を『作り』リカルドの手を取った。
 そんなアデライト達を祝福するように、パーティー会場に音楽が流れ始める――定番のこの曲を、けれど一回目に冷遇されていたアデライトが、リカルドと踊ることはなかった。

(巻き戻った今回は、何回もノヴァーリスと練習したけれどね)

 声に出さずにそう言うと、アデライトはリカルドと踊り出した。
 ……流石に下手ではないが、ノヴァーリスと踊った方が上手だったし、楽しかったと思いながら。