アデライトは美しいだけではなく、民から聖女と呼ばれるくらい慈悲深く、更にミレーヌのように聡明かつ謙虚だった。
 そんな彼女は母である王妃が気を利かせ、公務を理由に席を外した後、リカルドにある考えを打ち明けてくれた。

「女の浅知恵でございますが……ずっととは言いません。ですが、落ち着くまでの間だけでも税を無くせば、民達は喜ぶのではないでしょうか?」
「確かに……確かに、その通りだ! 君は本当に、素晴らしいっ」

 感激し、思わずリカルドはアデライトの手を取った。やってから内心で「しまった」と思ったが、アデライトがリカルドの手を拒むことはなかった。

(……拒まれないのなら、もう少し)

 そう思ってリカルドは感激したままを装い、アデライトの手に唇を落として言った。

「君こそ、王太子妃に相応しい」
「過分なお言葉ですが……サブリナ様が、いらっしゃいます」

 己の想いを打ち明けると、アデライトは悲しげに目を伏せた。けれど、王太子妃についてやリカルドへの拒絶はやはりなかった。
 間近にあるままの白い美貌を縁取る白銀の髪も、長い白銀のまつ毛も、本当に月の妖精のように美しかった。闇のような漆黒の髪と瞳を持つリカルドと、本当によく似合うと思う。派手派手しいサブリナとは、そういうところも大違いだ。
 身を退かないことに勢いを得て、リカルドはアデライトに言い募った。

「すまない。きちんと話をつけてから、君を迎え入れるから……その時は、どうか私の気持ちに応えてほしい」
「……ええ、リカルド様」

 頷き、健気に微笑んでくれたアデライトの為なら、何だって出来るとリカルドは思った。
 母親経由で、サブリナとの婚約は有事でなければ解消出来ないと聞いていたが――夏の天災があった今なら十分に有事に当たる。更にサブリナが己の贅沢の為、王室助成金を使い込んでいることを明るみにしたらどうだろう?

(解消なんて生温い。私とアデライト嬢との邪魔でしかないあの女を、追い落とせるのではないか?)

 元は、リカルドがドレスなどの金を払うのを惜しんで教えたのだが――そのことはすっかり棚上げし、リカルドはどれくらいサブリナが助成金を使い込んでいるかを、側近達を使って調べ出した。
 そしてリカルドは、サブリナが父であるロイド伯爵と共に、国費を横領しようとしていることを知った。

「父上、母上。話があります」

 内心、自ら破滅の道を選んだサブリナを嘲笑いながら、リカルドは両親にサブリナの悪事を打ち明けた。
 ……それは十一月の終わり頃、社交シーズンが始まる頃のことだった。
 そしてそれから一月後、国王夫妻はロイド伯爵から「サブリナの案により、助成金を民に配る」と聞かされた。