そう、サブリナもアデライトのように炊き出しをした。アデライトと重ならないようにか、学校を休んで広場で行った。
 事前に告知もしたので民達は集まり、サブリナに感謝したそうだが――一人の女の子が、サブリナに無邪気に尋ねたのだ。

「次はいつ、来てくれるの?」
「えっ……?」

 ドレスや装飾品を購入していた為、サブリナにはあまり自由になるお金がない。それでも、何とかやりくりして今回の炊き出しをしたのに、まさかこんな当然のようにねだられるなんて。
 ……アデライトが、いつも「来週、また来ます」と言っているので、善意の筈の炊き出しを民達はいつしか当然だと思っていた。もっとも、アデライトがわざとそう思わせるように行動しているのだが。

「駄目よ。サブリナ様は大変な中、こうして来てくれたんだから」
「でも、聖女様はいつも来てくれるよ?」
「あの方は、特別なの」
「……っ!」

 母親らしき女性が子供を窘めるが、その言い分がまた癪に障った。せっかく施して『やった』のに『こいつら』の中ではまだ『あの女』の方が上なのだ。
 その場では何とか堪えたが、その後の笑顔は引きつった。そして、サブリナの炊き出しについては新聞などで取り上げられることもなく、ほとんど話題にならなかった。悔しくて王宮でたまらず癇癪を起こすと、王妃に「見返りを求めるな」と叱られ、リカルドには無視をされた。

(どうすれば……どうすれば昔みたいに、リカルド様や王妃様が振り向いてくれる?)

 サブリナは、部屋で考えた。
 考えて考えて、やがてあることを思いついた。

「税を安く……いえ、いっそ一時的に無くせば、あの図々しい奴らも喜ぶんじゃない?」

 そう呟いて、サブリナはにんまり笑った。民が喜ぶ上、自分の懐が痛むこともない。本当に、良いことずくめである。
 そうと決まれば、今日は確かあの女が王妃のお茶会に来ている筈だ。そこで、サブリナがこの素晴らしい考えを披露すればあの女は打ちのめされるだろうし、リカルドは感激してくれるだろう。そう思い、サブリナは意気揚々とリカルド達がいるガセボへと向かった。
 ……だが、しかし。

「女の浅知恵でございますが……ずっととは言いません。ですが、落ち着くまでの間だけでも税を無くせば、民達は喜ぶのではないでしょうか?」
「確かに……確かに、その通りだ! 君は本当に、素晴らしいっ」

 サブリナが思いついたことを、アデライトが先に口にして――リカルドが、そんなアデライトの手を握って感激したように声を上げていた。
 ……逆に打ちのめされ、ふらつきながら一人部屋に戻っていくサブリナを見て、宙に浮いたノヴァーリスはアデライトに言った。

「バッチリ、聞かせることが出来たよ……これであの娘は、金をばらまくしかなくなった」