リカルドの黒髪と瞳は父親譲りで、端正な顔立ちは母親譲りだ。
 リカルドにエスコートされ、アデライトがお茶会が開かれる庭のガゼボへと向かうと――淡い金茶の髪を結い上げ、アデライト同様、流行前の露出の少ない臙脂のドレスを身につけた王妃が待っていた。椅子に腰かけたまま髪と同じ金茶の瞳を、ふ、と笑みの形に細めて口を開く。

「ベレス侯爵令嬢、よく来てくれたわね」
「王妃様のご尊顔を拝しまして、恐悦至極に存じます。アデライト・ベレスでございます」
「……ようこそ。さあ、座ってちょうだい?」
「失礼致します……ああ、こちらを。我が領で作られている、薔薇の香水とクリームです」
「まあ、ありがとう」

 王妃から声をかけられたところで、アデライトはカーテシーをして挨拶をした。
 合格点を得たのか、着席を許されたので侍女に用意した贈り物を渡した後、促された席へと腰掛けた。王族に私的に会う時は、領地に関するものを送るのがマナーなのである。
 アデライトの隣にリカルドが腰掛け、お茶とお菓子を勧められ。王妃から領地の話や王立学園の話をねだられて、お茶会の時間は穏やかに過ぎていく。
 とは言え、王妃と控えた侍女達はその後も微笑みながら、アデライトを観察し続けた。一回目のような見下してくる感じこそないが、じんわりまとわりついてくる視線や気配は、巻き戻った今回も相変わらずだ。

(でも、そう……サブリナと比べられているのか、概ね好意的な感じね)

 そう思いつつカップを傾けていると、宙に浮いていたノヴァーリスが声をかけてきた。

「……来たよ」
「王妃様、リカルド様……その女に、騙されないでっ」

 その声に重なり、わざとらしい涙目で突然、現れたサブリナが訴えてきた。流行後の露出が、そしてリボンやフリルが多いドレスを着てきている辺り、普段着なのかもしれないが場の空気を全く読んでいない。
 侍女達が慌てて連れ出そうとするが、サブリナは負けじと声を張り上げた。

「その女は……昔、王妃様に追い出された、ミレーヌという女性の教え子なんです! きっと、あることないこと吹き込まれているに違いないわっ」
「何ですって?」
「本当なのか、アデライト嬢!?」

 サブリナの言葉に、王妃とリカルドが笑みを消して問い詰めてくる。視界の隅で、サブリナがその反応を見て勝ち誇ったような笑みを浮かべたのが見えた。
 そんな一同の、そして微笑んだままのノヴァーリスの視線の先で、悲しげな表情を作り――アデライトは、口を開いた。

「ミレーヌ先生の教え子と言うのは、本当です。ですが……ミレーヌ先生が、王妃様方のことを悪く言うことなどありえません。むしろ、恩人である方々に自分のことを知られてご不快にさせまいと、私に黙っているよう仰られたのです」