「おはよう」
「ごきげんよう」
「殿下! それに、サブリナ嬢もっ」
「サブリナ様、おはようございます!」
「おはよう……早速、交流を深めていたのか。良いことだ」
「ふふ、皆様、ごきげんよう」

 リカルドとサブリナから声をかけられたのに、同級生達も口々に声をかける。
 ちなみに婚約者であるリカルド以外の男性が、あるいは令嬢がサブリナのことを苗字に爵位ではなく名前で呼ぶのは、彼女が王子であるリカルドの婚約者であり、そのことが生家や爵位より優先されるからだ。ほとんど呼ばれたことはなかったが、一回目ではアデライトもそうだった。
 さて先程はリカルドから名乗られなかったので名乗るだけで立ち去ったが、今は(知ってはいたが)王子だと解った状況なので謝罪しなくてはいけない。

「殿下。先程は、大変失礼致しました」
「いや……私こそ、逆に名乗らなかったか」
「リカルド様! リカルド様のことを知らなかった田舎者なんて、放っておきましょう!?」

 アデライトとリカルドのやり取りを遮って、サブリナが割り込んできた。婚約者とは言え、伯爵令嬢が侯爵令嬢を『田舎者』と言ったことに、クラスの空気が凍る。
 これが一回目だったなら、サブリナの言葉に従ってリカルドはアデライトを無視し、それに同級生達も従ってアデライトは今後、同級生達に構われなくなるだろう。
 ……だが先程の出会いは、アデライトが狙った通りリカルドに好印象を与えたようだ。

「サブリナ。私が名乗らなかったのが、悪かったのだ……ベレス侯爵令嬢、サブリナについてもすまなかった。どうか、許してほしい」
「「「っ!?」」」
「リカルド様!?」
「いえ、私こそ失礼致しました」
「……失礼は、お互い様としよう。改めて、同級生としてよろしく頼む」
「かしこまりました」
「リカ……」
「……席に行くぞ、サブリナ」
「…………」

 サブリナの無礼も含めて謝罪するリカルドに、成り行きを見守っていた同級生達は息を呑み、サブリナは更に言い募ろうとする。しかしリカルドに遮られたのに、サブリナは口を噤みつつもアデライトを睨みつけた。
 けれど当のリカルドは、アデライトへ謝罪をして何かあったようだがそれを許して、彼女との交流を続けようとしている。
 それ故、王子の婚約者とは言え侯爵令嬢に歯向かうサブリナの態度に、高位貴族である同級生達は眉を顰めた。
 そんな様子を見降ろしながら、ノヴァーリスがやれやれとため息をついて呟く。

「リカルドは、小賢しいね。単なる無礼者かと思ったら、わざと名乗らずに君に謝らせて、優位に立とうとするなんて……サブリナは嫌いだけど、リカルドの狙いを邪魔してくれたのは良かったかな」
「ええ、リカルドは内心、悔しがっているでしょうね。サブリナが出しゃばったせいで狙いが外れて、私に謝らなくてはいけなくなって」

 ノヴァーリスとのやり取りは、他の者には聞こえない――だから彼にだけそう言って、アデライトは黒板に書かれた自分の席へと向かった。