王室助成金とは、その言葉通り王族を援助する為の資金である。
 それ故、王太子の婚約者であるアデライトにも割り振られている。しかし、未成年である彼女は人前に出ないからと最低限の購入しかしていない。だからこそ、少しでも民への支援に使えたらと思ったのだ。
 だが、しかし。

「……私の助成金が、ない?」
「ああ」

 父からの答えを、アデライトは呆然としてくり返した。そんな彼女に頷いて、父であるウィリアムが言葉を続ける。

「リカルド殿下から、届けが出ている。直接は言い難いからと、お前に頼まれてドレスや宝石を買っていると」
「そんな……、私はっ!」

 アデライトは、そんなことなどしていない。更に、リカルドからドレスなど贈られたことは一度もない。

(私の助成金を、勝手に使い込んで……一体、何を……)

 ありえないことに、血の気が引く。
 だがここ数年、アデライトはまともに父と話していない。そうなると、自分の言うことなど信じて貰えないのではないだろうか――リカルドの側近達や学園の生徒達のように、あからさまにではないが失望され、見下されるのではないだろうか。
 そう思い、父の顔を見られなくて俯いたアデライトに、声がかけられる。

「解っている」
「……えっ……?」
「お前は、教会や孤児院に寄付をしているだろう? 出かける姿が執務室から見えるが、着ているドレスは……流石に季節ごとには変わるが、同じものだ」
「……お父様」
「学園での話も、聞いている。火遊びだとは思うが、使い込みも含めて卒業後に席を設けて話そう。学生のうちでは、陛下達を巻き込んでしまうからな……それよりもその様子では、一週間後の卒業パーティーで着るドレスも用意されていないんじゃないか?」
「それ、は……でも、ドレス自体はありますし……私のようなものが、変に着飾るのも……」
「アデライト」

 知られていたことは情けないが、ウィリアムからの言葉に安堵した。そんなアデライトの両頬が、父の手に包まれて視線ごと上向かされる。

「今までお前に任せきりで、本当にすまなかった……どうか、ドレスを送らせてほしい。オーダーメイドでなくて、申し訳ないがな。針子も、手配する……大丈夫だろうか?」
「お父様……十分です。ありがとう、ございます」

 アデライトと同じ、白銀の髪と青い瞳。普段、あまり喜怒哀楽が表に出ない父だったが、かけられた声からは微かに、けれど確かにアデライトに対する気遣いが感じられた。

(王妃様や侍女達から、殿方の仕事を邪魔しないよう言われていたけれど……思いきって、話をして良かった)

 ぬくもりと共に伝わってきた気持ちの温かさに、我慢出来ずに声が震え――アデライトの瞳から涙が一筋、また一筋とこぼれ落ちた。