三月。アデライトは、十五歳になっていた。
 もうすぐアデライトは、王立学園に入学する。年が明けた頃、領地からの通学は出来ないので、父からは王都にある屋敷から通うよう言われていた。
 ……しかし、アデライトは学生寮に入ることを希望していると父・ウィリアムに伝えた。

「私一人の為に、たくさんの人の手を煩わせたくないのです」
「しかし……」
「学生寮なら学園の敷地内にあるので、通学も安全ですし」
「……金銭的な負担を考えているのなら、別に」
「解っています。ですがどうせなら私一人に使うより、領地の為に使ってほしいんです」

 父の執務室で、考えておいた理由をアデライトが説明し、反論にも穏やかに返すとウィリアムは黙った。
 そう、高位貴族は通常、王都にある別邸から通うが――その場合、屋敷を維持したり、登下校に付き従う使用人達を用意しなくてはいけない。貴族は着替え一つ自分では出来ないし、当然だが掃除や洗濯なども無理だ。あと、万が一だが誘拐などの可能性も考えると一人で登下校もさせられない。
 それ故、ウィリアムも使用人を当然のことだと思っていたが、確かに学生寮に入ればそれらは格段に減らせる。

「……とは言え、私に掃除や身支度は出来ません。だからどうしても、一人は侍女をお願いしなくてはいけないのは解ってます」

 学生寮には平民だけではなく、下位貴族の令嬢令息も入るので使用人一人までは連れていけるようになっている。
 それ故、父への譲歩と――もう一つの目的の為、アデライトは言葉を続けて頭を下げた。

「王立学園に通う、三年間だけのことですから……王都で、侍女を募集したいと思います。お父様、どうかお許し下さい」



「ミレーヌは、君に付いてきたかったみたいだね……王族から解雇されても、君への忠誠の方が勝ったんだね」
「ええ、ありがたいことに……ただ、だからこそ一回目では王都から逃れていたミレーヌ先生を、復讐に巻き込む訳にはいきません」

 その日の夜。部屋で浮かぶノヴァーリスにそう答えながら、夜着姿のアデライトは父から渡された侍女候補の資料に目をやる。数枚あったが、そのうちの一枚にアデライトの目的の人物がいて、たまらず口の端が上がった。

「逆に『彼女』は、一回目では王宮にいましたから……少し前に、サブリナから解雇されたと聞いたので侍女募集をすれば来ると思っていました。逃がしてなんか、あげません」

 そう、資料に載っている名前は一回目の時、王宮でアデライトに仕えていた侍女の一人だった。
 ……王妃に心酔する反面、アデライトを見下していた女性だった。